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 お役立ち情報 > ITや経営の情報 > 年金問題はコンピュータのせいだって?
2007/07/11 織田 幸博

 政治問題となりつつあるので余りコメントすべきではないかもしれませんが、ここ1週間にWebに掲載された記事があまりにもひどいので一言します。今の問題をコンピュータのせいにして国民を「しかたない」と思わせる誘導をしているかのようにも見えます。

1. 国会議員のコラム
「消えた年金記録の裏側で何が起こっていたのか」 藤末健三参議院議員(東京○○大卒)
http://nvc.nikkeibp.co.jp/free/COLUMN/20070704/108155/
 全体としてはそれほど大きな誤解はありませんが、理解できないのは次の記述です。

(以下引用)
そして、5000万件のデータを突合するためのコンピュータシステムについて、以下の2点を柳沢厚生労働大臣に提言をしました。
【1】 社会保険庁の2、3世代前の古いコンピュータシステムでは5000万件の突合作業に対応できない。新しいシステムを平成23年から導入する予定であるが、その一部でも繰り上げて導入し、作業を行うべき。
【2】 現在の社会保険庁ではコンピュータシステムを的確に運用できない。年間約1000億円のお金(皆様の年金から拠出)を使っているが、全てNTTデータや日立に丸投げしていて内部に知見がない。コンピュータをうまく使える省庁、たとえば国税庁の応援をお願いすべき。
(引用終り)

2項目は社保庁の運用能力の問題ですからさもありなんですが、1項目は納得できません。いままで聞いたことがない「突合」(とつごう)という言葉がこの問題で出てきたのにも違和感がありますが、それ以上に「古いホストコンピュータでは突合せ作業が出来ない」なんてとんでもない話です。シーケンシャルファイルのマッチング処理こそがホストコンピュータのファイル処理の生命線でした。マスタファイル、トランザクションファイルなど入力の磁気テープが4本、出力の磁気テープも4本、これが同期してくるくる回るのは正に圧巻でした。(SLの三重連運転を見るようです。これも古いな!)

2. 有名ジャーナリストのコラム
「国民はなぜ安倍内閣を見放したか “かばい合い”自民が落ちたワナ」 田原総一朗
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/tahara/070705_18th/
生半可な議員の発言でオピニオンリーダの大きな誤解をまねき、コンピュータを悪者にする流れが出来ようとしています。

(以下引用)
社保庁の仕事は、掛け金を受け取って払うという単純作業である。僕は、本当に役所が大量の記録を捨てることがあるのだろうかと疑問に思っていたが、「サンデープロジェクト」や「朝まで生テレビ」で討論を重ねて、この年金問題はどうやらコンピュータのせいで起こったものだとわかってきた。
7月1日のサンデープロジェクトで、公明党の斉藤鉄夫政調会長に話を聞いた。彼は東京○○大を出て、日本の国会議員の中で、最もコンピュータシステムに詳しいといわれている。彼がいうには、いまだに社保庁のシステムはCOBOLというプログラム言語を使っているという。これは彼が学生時代に使っていたもので、40年も前のものだ。つまりこの年金の問題は、あまりにも古いシステムとハードを使っていることから起きたのだ。
(引用終り)

実は私も7月1日、ここの部分だけTVを見ていて、のけぞってしまいました。議員は「自分はFORTRAN言語をやっていたが、当時ももっと古いCOBOLでは・・・」というような発言だったと思います。FORTRANもCOBOLも同じ言語だし、FORTRANのほうがもっとお粗末な仕様(注1)なのに、とあきれて見るのをやめました。
 素人の田原さんが誤解するのは仕方ないが、それを正せない議員ってなに、と。COBOLは今でも各所の基幹システムで動いているし、年金データの収集、個人データの集積などバッチ処理には言語になんの問題もない。もちろんリアルタイムでの検索には劣るかもしれないが・・・。
問題は制度がころころ変わったためにマッチングするキーがバラバラなことが本質。キーが一致していないデータを曖昧マッチングすることはC言語だろうと、Javaを持ってこようが出来ない。今計画している曖昧データの「名寄せ」にはデータマイニングなどのアルゴリズムなどを持ち込むことを考えているのだろうが、それは決してCOBOLなどの言語の問題ではない。
 中途半端な知識で影響力が大きい(?)有名ジャーナリストをミスリードしてしまっては困ります。(そういえば1.のコラムも東京○○大卒だ。ここ大丈夫か?)
(注1)FORTRANは READ(5, ):カードを読む、WRITE(6, ):印字する、IF〜GO、データは数値のみが基本など、COBOLと比べるとはるかに「簡易言語」と言えます。

3. 日経ITProのコラム
「片山さつき議員の「システムは数カ月でできる」発言に思う」 多田正行(CRMコンサル)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070705/276798/?L=rss
 タイトルに引かれて読みましたが、CIOのせいにしています。これも違うな。

(以下引用)
その番組を見ていた筆者は,片山さつき衆議院議員の発言に,思わず起き上がって映し出されている画面を注視した。片山氏は「(新しい年金システムは)数カ月でできる」と発言したのだ。・・・テレビに映し出された片山氏の発言はそこで終わったのだが,隣席の出席者から小声で訪ねられたのだろう,小さな声で「マイクロソフトの…」という片山氏の私語が短い時間流れた。・・・・
  今の社保庁に必要なのは,いわゆるCIO(情報最高責任者),つまり組織運営を左右する情報システムの利活用について,専門的な知識,経験,見識を備えた上級マネジメント(経営陣)だ。 例えば,日本郵政公社にはCIOがいる。吉本和彦理事が民営化に向けて情報システムの指揮を執っている。
(引用終り)

前半の片山氏のしろうと発言はどうやらマイクロソフトの知人に聞いたという程度でどうでもよいが、後半のマネジメントの問題に片付けるのはなんとも的外れと思う。自民党の高官が言っているように、「これは現場での既存システムの事務処理の問題なんだから・・・」のほうが正しいでしょう。既存システムの問題解決のために組織の上のほうにITリーダを持ってきても当面はなんの役にも立たないだろう。東証のようにこれから新たにプロジェクトを起こすときには有効でしょうが・・・。結局コラムの筆者の持論(組織論、CIO・・・?)に持ち込んでいるだけでないでしょうか。

4. 年金法自体がパッチだらけなのだ
 年金システム自体にかかわってるわけではないのでソフトウェアの作りを具体的に知ることはできませんが、もともとの法律を少し眺めてみれば容易に想像はつきます。国民年金法(注2)や厚生年金保険法の条文には「附則」とか「付表」が一杯ついています。附則とはいわば「但し書き」であり、いろいろな事情で法律改正をするときに、いわゆる「経過・例外措置として既存の権利は守る」など、をどんどん追加していったものです。コンピュータ用語で言えば「パッチ」です。法律改正のたびにプログラムのほうも保守のためにこれらの例外処理を追加していきますから、プログラムも「パッチだらけ状態」や「スパゲティ状態」になることは当然でしょう。これは決してCOBOLだからとか言語の問題ではありません。もともとの法律自体がつぎはぎなので、そのとうりにプログラムを組まないと例外処理が漏れるので、どんな言語を持って来ようとつぎはぎプログラムにならざるを得ません。
(注2)法律的には国民年金は名前のとおり「保険」ではないのです。従って原則からは「税金で全額負担する」考えも正当です。

5. 制度全体を清流化しないと問題は変わらない。
 もともとの法律=制度がつぎはぎだらけなので、この状態のところにグーグルの検索技術などのITの最新技術を持ち込んでも当面の「名寄せ」作業は加速するかもしれないが、根本的な「スパゲティプログラム」は変わらない。これは決してC言語に書き換えようが作りは変えられない。年金制度全体のグランドデザインからし直して、例外処理などがないようなものにしないと解決にはならないでしょう。これをほって置いて、職員組合だの、歴代長官だの、はたまたシステムベンダが悪いだのと責任者探しに走っている様子です。
なおさらCOBOLが悪者になっているのは、ばかげています。
COBOLプログラマ育ちの人間として、COBOLの名誉を守るために一言しました。

企業も仕事のやり方がルールなし(adhoc)とかスパゲティ状態(例外処理ばかり)のままでITを導入してもうまく行かないでしょう。業務を整理して清流化することが先決です。
以上


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